【豆知識】釿(ちょうな)とは?柄や用途などを含めて徹底解説!
- サルトくん
2021.05.25 2021.06.04
(出典:松本社寺建設)
古来より、日本の木造建築にはさまざまな伝統工具が使われてきました。
曲尺やノミ、玄能などは、今でもまだ目にする道具です。一方、墨壺のように、技術の進歩によって使われなくなった道具もあります。
「釿」(ちょうな)もそのひとつ。紀元前から使われてきた釿は、しばしば「大工道具の化石」とも呼ばれます。
本記事では少しでも釿に興味を持たれた方に向けて、その歴史や種類を詳しくまとめています。
誰かに話したくなるマメ知識が満載です。ぜひご一読ください。
釿(ちょうな)とは?
そもそも釿(ちょうな)とは、いったいどのような道具なのでしょうか?
釿の用途と名前の由来、そして現代での使われ方を見ていきましょう。
釿/手斧【ちょうな】
(出典:陣太鼓本舗)
釿(ちょうな)とは、斧の一種です。「釿」のほか「手斧」と書いて【ちょうな】と読むこともあります。
木の表面を削るための道具として、古くは石器時代から使われてきました。なお、日本固有のものではなく、世界各地で釿が使われていた記録が残っています。
上の画像を見ると、直角に曲がった柄の先に平たい刃がついていることが分かります。この刃を鍬のように振り下ろし、木材を粗削りするのです。
木材の表面を削るのは、今でこそ鉋(かんな)の役目となっています。しかし、日本の歴史に鉋が登場するのは、少なくとも弥生時代まで待たなければなりません。
いわば釿というのは、人類が発明した原初の工具です。「大工道具の化石」と呼ばれていることからも、その歴史的な価値がうかがえます。
名前の由来
(出典:weblio辞書)
名前の由来については諸説ありますが、手斧【ておの】の読みが変化し、「ちょうな」になったという説が有力です。
その他の説としては、
- 大きく手を振り下ろす様子から「てふるば」となり、転じて「ちょうな」になった。
- 形が漢字の「丁」に似ていることから「ちょうな」になった。
などが挙げられます。
ちなみに、現代において手斧【ておの】と読まれる場合、一般には鉞(まさかり)や鉈(なた)など、片手で扱えるサイズの斧を指します。
キャンプ場で大活躍のハンドアックスも、この手斧のひとつです。
現代における釿の使用
(出典:名栗加工 むか井)
鉋や電動工具が普及した現在、釿を見かける機会はほとんどなくなりました。それでも宮大工や木地師(椀や盆などを作る職人)の一部に、いまだ釿を使っているケースが見受けられます。
釿ではつり(表面加工)を行った木材には、独特の味わいが生まれます。この削り跡をあえて残す技術は「名栗」(なぐり)と呼ばれ、日本建築に古くから使われてきました。
中世に木材の加工技術が進歩した後も、釿による装飾文化は発展し続けました。世界広しといえども、釿が建築デザインに用いられた例は日本くらいのものでしょう。
釿の扱いは、一朝一夕で身につく技術ではありません。失われつつある文化を守るため、釿による住宅の施工や家具などの制作を手がける職人もいます。
参考までに、実際に職人が釿を使っている様子は、以下の動画で見ることができます。
失われゆく釿の文化
(出典:ざ・京都)
京都の広隆寺では、元旦に「釿始め」と呼ばれる儀式が行われています。これは京の番匠(大工の棟梁)が一年の安全を祈願する行事です。
儀式の終盤では、本堂の前に運ばれた御木に奉納用の釿が振り下ろされます。釿のほかにも、曲尺や墨指など、数々の伝統工具がお披露目される場です。
実は、釿を作る鍛冶職人は日本にほとんど残っていません。刃も柄も、新たに作ることが難しい状況に陥っています。
もしも家の物置に釿が眠っていたら、それは非常に貴重なものです。失われゆく工具に思いを馳せ、どうか大切に扱いましょう。
釿(ちょうな)の種類は?
ここからは、釿の種類について詳しく見ていきましょう。
刃先の形状によって、大きく以下のタイプに分かれます。
東型
(出典:越後の大工刃物・大工工具)
丸太などの仕上げに適したタイプ。刃先は3寸2分(約12cm)前後のものが多く見られます。ちなみに、上の画像もその通りの長さです。
奴型
(出典:越後の大工刃物・大工工具)
東型よりも刃先の広がったタイプです。なお、上の画像は3寸6分(約13.6cm)の長さとなっています。
蛤型
(出典:越後の大工刃物・大工工具)
文字通り、刃先が蛤の形に湾曲したタイプです。板などの仕上げに適しています。
コウモリ型
(出典:越後の大工刃物・大工工具)
こちらも一目見て分かるように、コウモリの形をしたユニークな刃です。
その他(岩国型、名栗型など)
(出典:越後の大工刃物・大工工具)
釿の刃は、地域ごとにさまざまなバリエーションがあります。上の画像は岩国型で、刃の両面を加工している点が特徴です。
ほかに名栗型や秋田型など、それぞれの地域名を冠した刃が存在しています。長い年月をかけて、釿は日本独自の進化を遂げたのです。
釿(ちょうな)の柄の種類は?
続いて、釿の柄に注目してみましょう。力強く振り下ろされる道具のため、その柄は極めて頑丈でなければなりません。
柄の素材としては、主に以下の2種類が知られています。
エンジュ
(出典:Wikipedia ⒸFanghong, July 10, 2005.)
エンジュは中国原産の落葉樹です。日本では街路樹として普及しており、初夏に白い花を咲かせている光景がしばしば見られます。
エンジュは堅く割れにくいため、主に家の内装材や家具、彫刻に使われてきました。釿の柄に用いられるようになったのも、その丈夫な木質によるものです。
ちなみに、エンジュの花言葉は「上品」。中国では縁起のいい木とされているほか、花を乾燥させたものが止血剤として用いられています。
エゴノキ
(出典:Wikipedia ⒸGondahara, May 27, 2006.)
近年作られた釿には、エゴノキ製の柄も見受けられます。エゴノキは別名チシャノキとも呼ばれる落葉樹で、日本全国に分布します。
エンジュ同様に堅くて加工がしやすいことから、エゴノキは日本の伝統工芸に多く使われてきました。代表的なところでは、和傘の柄(ロクロ)にもエゴノキが用いられています。
花言葉は「壮大」。美しい花を咲かせることから、盆栽やシンボルツリーとしても愛されています。
柄の加工方法
(出典:名栗加工 むか井)
エンジュやエゴノキを釿の柄とするためには、木材を大きく湾曲させなければなりません。
その加工方法としては、主に2種類が知られています。
ひとつは生木段階の枝を紐で縛り、曲げクセをつけた後に伐採する方法です。古くからある手法ですが、現在では釿の需要が減ったため、見かけることはまずありません。
もうひとつは伐採した枝を煮込み、柔らかくして曲げる方法です。いわゆる曲げ木と呼ばれる方法で、ある程度の習熟は必要ですが、取り組むこと自体は難しくありません。
まとめ
今回は、伝統工具である「釿」(ちょうな)をご紹介しました。
釿が「大工道具の化石」といわれる理由、お分かりいただけたでしょうか。
電動工具が当たり前になった時代だからこそ、釿による粗削りの加工が、とても素朴で味わい深いものに感じられます。
このまま釿の文化が消えていくのは悲しいですよね。広隆寺の「釿始め」や残された釿職人の手を通して、未来へと受け継がれることを祈るばかりです。
アクトツールのコラムでは、さまざまな工具の豆知識を発信しています。興味のある方は、ぜひ他の記事にも目をお通しください。