【大工道具】鏨(たがね)・チゼルとは?
- サルトくん
2021.06.01 2021.08.12
電動工具が普及した現在でも、建築の現場では多くのハンドツールが使われています。
鏨(たがね)も例外ではありません。一見すると原始的な形に思えますが、今日にいたるまで多様な進化を遂げてきた工具です。
今回の記事では、そんな「鏨」を徹底解説。鏨の歴史や用途、具体的な種類を丁寧に見ていきます。
という初心者から、
という鏨選びで迷っている方まで、この記事を読めばひと通りの知識が身につきます。
5分前後で読めるようにまとめたので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
鏨(たがね)とは?
ずばり、鏨とは何でしょうか?
何よりもはじめに、鏨の役割と歴史を見ていきましょう。
古くから岩石・金属加工に使われてきた
鏨(たがね)は、主に岩石や金属を加工するための工具です。
鋭い刃を持っており、反対側をハンマーで叩くことでコンクリートを削ったり(いわゆる「はつり」作業)、鉄板を加工したりします。
鏨には、太古の昔から使われてきた歴史があります。たとえば、紀元前6世紀のギリシャでは大理石の彫刻に用いられ、紀元前7世紀のエジプトでは王墓の碑文に用いられてきました。
日本では古墳時代、石棺を作る際などに使われた記録が残っています。時代や地域によって形を変えながら、鏨は脈々と受け継がれてきました。
鏨とチゼルは同一のもの
鏨は「チゼル」とも呼ばれています。チゼル(chisel)とは、鏨を英語で読み替えたもの。基本的に、鏨とチゼルは同じ工具と考えてもらって構いません。
ただし、英語の「チゼル」は、鏨(たがね)のほかに鑿(のみ)も意味します。
鑿(のみ)は木材の彫刻などに使われる工具です。サイズや用途はまったく異なりますが、歴史的には鏨と同じ進化の道をたどってきました。
ちなみに、【chisel】の語源は「切ること」を意味するラテン語のseco、もしくはフランス語のciseau。現代英語の【scissors】(ハサミ)も、ここから派生したものです。
はつり機(電動ハンマー)の普及
電動工具が発達した現在でも、鏨は大工の現場を中心に活躍しています。ただし、大規模な作業では鏨の代わりに「はつり機」(電動ハンマー)も使用されます。
はつり機は、文字通り「はつり作業」(コンクリートを削る作業)を行うための電動工具です。強い振動による打撃で、効率よくコンクリートを削っていきます。
なお、はつり機の先端には専用のチゼルが付いており、用途に応じて取り替えられます。基本的な形状は鏨と同じなので、後述する刃の種類を覚えておくといいでしょう。
鏨の用途や使い方は?
続いて、鏨の詳しい用途を見ていきましょう。鏨は、おおむね以下の作業で活躍します。
- コンクリートの破砕(はつり作業)
- 鉄板の切断や曲げ加工
- 貴金属などの表面装飾
- アーク溶接のバリ取り
- スポット溶接の剥がし
やや専門的な言葉もあるので、それぞれ具体的に説明していきましょう。
コンクリートの破砕や成形(はつり作業)
コンクリートを削ったり、穴を開けたりすることを「はつり作業」と呼びます。解体工事はもちろん、新築やリフォームの現場でも必要となる作業です。
現代において、大規模なはつり作業では専用のはつり機(電動ハンマー)が用いられます。一方、狭い場所や正確性が要求される作業は、依然として鏨の出番です。
その他、ブロックやタイルを組む際にも、正確に石材をカットできる鏨が重宝されています。
鉄板の切断や曲げ
(画像:モノタロウ)
鏨は鉄板を切断する際にも大いに活躍します。
もちろんグラインダーを用いてもいいのですが、薄い鉄板であれば鏨の力でも十分に切断可能です。
また、鏨を上手くあてがうことで、鉄板を折り曲げることもできます(上記画像)。ちょっとした加工作業に、鏨がひとつあると非常に便利です。
貴金属などの表面装飾
鏨はアクセサリーなどの彫金にも用いられます。彫金用の鏨は細く硬く作られており、金属面に美しい装飾を施すことが可能です。
このほか、ガンプラなどのプラモデルにも彫金用の小さな鏨が使われます。作品のディティールを追求するプラモデラーにとって、鏨は欠かすことができないツールです。
アーク溶接のバリ取り
アーク溶接(空気中の放電現象を用いた溶接方法)では、作業時にスパッタと呼ばれる金属粒子が飛散します。このスパッタは品質低下の原因となるため、塗装をする前に鏨で取り除かなければなりません。
スパッタの除去には、一般的な鏨のほか、「ジェットタガネ」と呼ばれる専用工具も使われます。
ジェットタガネは電気や空気の力でニードルの束を動かし、広範囲のスパッタを落としてくれる優れもの。溶接の仕事では重宝されます。
スポット溶接の剥がし
(画像:モノタロウ)
スポット溶接とは、鉄板に電気を流し、その電力抵抗を用いて圧接する方法です。仕上がりが綺麗で大量生産に向いていることから、自動車のフレームなどで用いられています。
自動車の板金塗装では、このスポット溶接を剥がす必要があります。板金用の鏨(ディヴァイダーとも呼ばれます)は、フレームの狭い隙間にも差し込めるよう工夫されたものです。
鏨の種類は?
一口に鏨といっても、さまざまな種類があります。種類によって特性が異なるので、購入の上では用途をはっきりさせてから選んでください。
代表的なものとしては、以下の6種類が挙げられます。
- 平タガネ
- チス(チスタガネ)
- レンガタガネ
- カットチゼル
- スロットチゼル
- 影タガネ
上記のほか、扱いやすさを重視した「木柄タガネ」や、彫金用の「毛彫りタガネ」もあります。
参考画像とともに、以下で詳しく見ていきましょう。
平タガネ
(画像:トラスコ 平タガネ)
「平たがね」は、先端が平たい形状のものを指します。鏨といえば、多くの方はこの平たがねを思い浮かべるでしょう。
先端が細い分、ハンマーの力が効率的に伝わります。鉄板の切断やコンクリートの成形に適したタイプです。
チス(チスタガネ)
(画像:SK11 チスタガネ)
先端が尖った形状の鏨を「チス」と呼びます。打ち込む力が一点に集中するため、コンクリートのはつり作業にぴったりです。
電動工具(はつり機・電動ハンマーなど)が入らないような狭い箇所では、このチスタガネが出番となります。
レンガタガネ
(画像:モクバ レンガタガネ)
その名の通り、レンガ・ブロックを割る際に使われる鏨です。平タガネよりも刃幅が広いため、均一な力が加わり、石材をまっすぐに割ることができます。
カットチゼル
(画像:モクバ カットチゼル)
レンガタガネと似た形状ですが、刃幅が狭いため、より細かい作業が行えます。レンガ・ブロック割りはもちろん、Pタイルや道路の白線を剥がす際に便利です。
スロットチゼル
(画像:モクバ スロットチゼル)
薄く鋭利な形状をした鏨です。持ち手が板状になったいるため、ハンマーで打つ際に刃先が回転しません。
正確に打ち込めることから、スポット溶接の剥がしや、アーク溶接のバリ取り、ボルトの切断などに使われます。
影タガネ
(画像:盛光 影打金)
刃先が扇形に開いた鏨です。鋭さに欠けるため切断には不向きですが、板金での折曲げには最適。表面を傷つけることなく、鉄板を直線的に曲げられます。
木柄タガネ
(画像:モクバ 木柄タガネ)
木製の柄がついたタイプの鏨です。持ちやすいため手が疲れず、ふいに鏨が抜け落ちる心配もありません。初心者でも比較的安全に作業ができるでしょう。
毛彫りタガネ
(画像:超硬タガネ 毛彫)
彫金用の鏨です。貴金属の装飾のほか、プラモデルのスジ掘り(作品の表面に模様を彫ること)にも使われるもので、非常に細く精巧な刃が特徴です。
まとめ
今回は鏨(たがね)の用途や種類を解説しました。
鏨は最もポピュラーな手工具のひとつです。ホームセンターに行けば安価で購入できるので、DIYユーザーの方も揃えておくといいでしょう。レンガを組む際などに重宝するはずです。
アクトツールでは、鏨のような手工具も含め、さまざまな製品の解説や紹介を行っています。興味を持った方は、ぜひ他の記事もご覧ください。