「シャーレンチってどんな工具?」の疑問にプロが答えます!
- サルトくん
2021.05.21 2021.06.15
皆さんは「シャーレンチ」を知っていますか?
ビルや橋梁などの建設現場で使われるシャーレンチは、とても専門性が高い工具です。たとえ聞いたことがなくても無理はありません。
とはいえ、シャーレンチは非常に奥が深い工具でもあります。その仕組みを知れば、きっと魅力が分かるでしょう。
今回は、シャーレンチの用途や使い方、種類を解説します。さらに、後半では国内主要メーカーのシャーレンチを一挙に紹介しているので、製品選びで迷った際の参考にしてください。
シャーレンチのことを知らない方も、知っている方も必見の記事となっています。ぜひお読みください。
シャーレンチとは?
「シャーレンチ」は、トルシア形高力ボルト(シャーボルト)専用の締付け工具です。
「トルシア形高力ボルト」や「シャーボルト」と聞いても、多くの方はピンとこないでしょう。
ビルの鉄骨を思い浮かべてみてください。多くの場合、鉄骨の接手部分にはトルシア形高力ボルトが使われています。
トルシア形高力ボルトの特徴
(引用:日鉄ボルテン株式会社)
トルシア形高力ボルト=シャーボルトが通常の六角ボルトと異なる点は、ボルト頭が丸くなっていること、そして先端にピンテールと呼ばれる突起があることです。
このピンテールは、規定トルクで締め付けると自然に折れます。折れたピンテールを見れば、ボルトの締め付けが完了したことは一目瞭然。この性質によって、ボルトの締め忘れを防ぎ、なおかつ適切なトルク管理ができるのです。
また、職人の目線に立って考えると、シャーボルトはトルクを細かく調整する必要がないため、六角ボルトよりも効率的に作業できます。
シャーレンチの仕組み
(引用:日鉄ボルテン株式会社)
このように特殊な性質を持った「シャーボルト」の専用工具として、「シャーレンチ」が生まれたのです。
詳しい構造の説明は省きますが、上記の図のように、ナットにはまるアウタースリーブと、ピンテールにはまるインナースリーブ(緑色の部分)が別々に動くことで、締め付けが行われます。
打撃力を使って締めるインパクトレンチと違い、シャーレンチはモーターの回転のみでボルトを締め上げます。その性質上、シャーレンチはどうしても高価にならざるを得ません。
また、かなりのパワーが求められることから、充電式工具が広く普及した現在においても、シャーレンチに限っては電源式が主流となっています。
シャーレンチの使い方
シャーレンチの具体的な使い方を見ていきましょう。通常、ボルト締めは以下の流れで行われます。
(仮締め)⇒一次締め⇒
(マーキング)⇒本締め
このうち、シャーレンチが使われるのは一次締めと本締めの作業です。
一次締め
一次締めとは、仮締め(手締め)をしたボルトに所定のトルクを加え、ボルトと部材を密着させる作業のことです。本締めではないため、この段階ではまだピンテールは折れません。
一次締めには、締付けトルクを指定できる一次締め用シャーレンチが使われます。
本締め
一次締めの後、シャーレンチを取り換えて本締めを行います。すでに述べたように、規定トルクで締め付けるとピンテールが折れるため、目視で締め付け完了の確認をすることができます。
本締めには、高いトルクで締め付けできる本締め用シャーレンチが使われます。
マーキング
実際の現場では、一次締めが終わった段階でボルトにマーキングをします。
これは共回り(ボルトとナット、ボルトと座金が一緒に回ってしまい、締め付けが不完全になること)を防ぐために欠かせない作業です。
本締めをした後、マーキングのズレが許容範囲内に収まっていれば、締め付けが正しく行われた証拠となります。
シャーレンチの種類は?
実際の製品を見てみると、さまざまな種類のシャーレンチがあることに気がつきます。
以下の点を押さえておけば、製品ごとの違いが分かるでしょう。
ソケットのサイズ
(画像はTONE アウターソケット)
シャーレンチは、製品によって適合するボルトサイズ(呼び径)が異なります。
主に使われているのは、M16・20・22・24・27・30のサイズ。サイズによって規定トルクの値が異なります。
また、高力ボルトのほかに、日鉄ボルテン株式会社の開発した「超高力ボルト」の規格もあります。シャーレンチのスペック表には、かならず対応する規格が記載されているので、くれぐれも間違えないようにしてください。
電源式/充電式
(画像はTONE CSM200)
すでに述べた通り、ハイパワーを必要とするシャーレンチは、電源コード式(AC100V・200V)の製品が大半を占めます。
ただし、メーカーの企業努力により、最近になって充電式の製品も登場するようになりました。国内メーカーでは、TONEやマキタが充電式モデルをラインナップに加えています。
多くの電動工具がそうであるように、充電式の利点として、コードが邪魔にならず取り回しに優れている点、漏電や電圧降下の心配がない点が挙げられます。
一方で、つねにバッテリー残量を気にしなくてはいけない点は、充電式の短所といえるでしょう。
本体の形状
(画像はTONE US221T/コーナー型)
シャーレンチの本体形状にも、複数の種類があります。それぞれに適した用途があるので、ここで確ののしておきましょう。
スタンダード型は、通常のインパクトレンチと同じように、大きなグリップを握って作業します。
コーナー型は、ボディがL字に曲がっており、狭い箇所でも作業を行えるようになっています。
また、グリップが180°回転するタイプもあります。これはナットを真下から締め上げる「かちあげ作業」のために設計されています。
シャーレンチの人気メーカーは?
現在、国内の主要メーカーでシャーレンチを製造しているのは「TONE」「マキタ」「HiKOKI」の3社です。
さっそく各メーカーの特徴と製品ラインナップを見ていきましょう。
1938年創業のTONEは、主にボルト締結工具を手がけるメーカーです。その活躍のフィールドは広く、建設現場に加え、産業機械や自動車など多岐の分野にわたります。
また、国内においてはSUPER GTなどのモータースポーツに参戦し、スポンサーとして各種工具を提供しています。ピットでのタイヤ交換の様子を見ていると、TONEのインパクトレンチが使われていることが分かるでしょう。
シャーレンチに関しても、TONEは豊富なラインナップを展開。あらゆる種類のトルシア形高力ボルトに対応しています。
TONE製シャーレンチの特長としては、ナメリ防止装置の搭載が挙げられます。これはインナーソケットの挿入が不完全な状態では、締め付けできないようにする機能。プロの現場に対する、TONEの細やかな配慮がうかがえます。
スタンダードなM20用シャーレンチです。
電源 | GM201AT:AC100V GM202AT:AC200V |
最大締付トルク | 600N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20 超高力ボルト:M16 |
重量 | 4.3kg |
スタンダードなM22用シャーレンチです。
電源 | GM221AT:AC100V GM222AT:AC200V |
最大締付トルク | 800N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 4.7kg |
高出力のM24用シャーレンチです。
電源 | GH241AT:AC100V GM242AT:AC200V |
最大締付トルク | 1,250N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M20・22・24 超高力ボルト:M20・22・24 |
重量 | 7.1kg |
M30用シャーレンチ。大口径ですが、ボディは軽量コンパクトに作られています。
電源 | V301T:AC100V V302T:AC200V |
最大締付トルク | 2,059N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M24・27・30 超高力ボルト:M22・24 |
重量 | 7.2kg |
M20・22用コーナー型シャーレンチです。
電源 | GMC221T:AC100V GMC222T:AC200V |
最大締付トルク | 800N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 5.3kg |
極短のM22用シャーレンチです。コーナー型でも届かない狭い箇所に。
電源 | US221T:AC100V US222T:AC200V |
最大締付トルク | 735N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16 |
重量 | 7.0kg |
超極短のM22用シャーレンチです。極短のUS221Tでも届かない狭い箇所に。
電源 | USS221T:AC100V USS222T:AC200V |
最大締付トルク | 735N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16 |
重量 | 8.9kg |
電源 | GUS241:AC100V GUS242:AC200V |
最大締付トルク | 1250N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M22・24 超高力ボルト:M22・24 |
重量 | 7.7kg |
新製品のM16用コードレスシャーレンチです。軽量コンパクトな本体はそのままに、36Vバッテリーを搭載しました。
電源 | バッテリー36V |
最大締付トルク | 1250N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16 |
重量 | 4.6kg |
M20用コードレスシャーレンチです。
電源 | バッテリー36V |
最大締付トルク | 1250N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20 超高力ボルト:M16 |
重量 | 5.1kg |
M22用コードレスシャーレンチです。
電源 | バッテリー36V |
最大締付トルク | 1250N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 5.5kg |
100年以上の歴史を持つ総合電動工具メーカー・マキタも、シャーレンチの開発に力を入れています。各種ボルトサイズに対応したモデルを展開していますが、特筆すべきはコードレスタイプの存在です。
記事の冒頭で述べたように、シャーレンチは大きなパワーを必要とすることから、電源式のタイプが主流となっていました。そんな中で、マキタは革新的といえる充電式のシャーレンチを開発。
充電式は取り回しに優れており、漏電や電圧降下の心配もありません。36V(18V+18V)の大出力で、電源式に負けず劣らずの性能を誇っています。
スタンダードなM16用シャーレンチです。
電源 | AC100V・200V |
最大締付トルク | 588N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20 超高力ボルト:M16 |
重量 | 4.3kg |
スタンダードなM20用シャーレンチです。
電源 | AC100V・200V |
最大締付トルク | 804N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 4.8kg |
高出力のM22用シャーレンチです。
電源 | AC100V・200V |
最大締付トルク | 1,100N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M20・22・24 超高力ボルト:M20・22 |
重量 | 5.9kg |
マキタの技術を活かしたコードレスシャーレンチ。ブラシレスモーター搭載で耐久性にも優れています。
電源 | 充電式36V(18V+18V) |
最大締付トルク | 804N・m |
対応ボルト | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 7.1kg |
大手電動工具メーカー・HiKOKI(旧・日立工機)も、シャーレンチを販売しています。
スタンダードな電源式モデルのみの展開ですが、性能は申し分なく、スピーディな締付け作業が行えます。また、ボディが軽量かつコンパクトである点も特徴といえるでしょう。
スタンダードなM16用シャーレンチです。
電源 | AC100V |
最大締付トルク | 588N・m |
ボルトサイズ | 高力ボルト;M16・M20 超高力ボルト:M16 |
重量 | 4.1kg |
スタンダードなM20用シャーレンチです。
電源 | AC100V |
最大締付トルク | 804N・m |
ボルトサイズ | 高力ボルト;M16・20・22 超高力ボルト:M16・20 |
重量 | 4.7kg |
まとめ
今回は主に建設現場で使われる工具「シャーレンチ」を紹介しました。
ボルトを締め上げると、自動的にピンが折れる「トルシア形高力ボルト」(シャーボルト)。その仕組みを知って、思わず膝を打った方も多いのではないでしょうか。
私たちの生活は、このような小さな発明品の数々によって支えられているのです。
アクトツールのコラムでは、他にもさまざまな工具を紹介しています。興味がある方はぜひ読んでみてください。